権利の窓
2018年02月02日 優先株式について その2
前回は、ベンチャー企業及び上場企業での優先株式の利用例
を1つずつご紹介させていただきました。
今回は、事業承継及び同族企業における安定株主対策として
の利用例をご紹介いたします。
配当優先無議決権株式
よく配当優先無議決権株式として利用されるケースがありま
す。
これは例えば、同族間で株式を保有している場合には、オー
ナー経営者とそれ以外のご親族、経営陣と従業員株主がいる場
合は、従業員の福利厚生の一環として従業員持株会を組成した
うえで、お手続きをいたします。
このとき、「ご親族」又は「従業員持株会」の保有する株式を
配当優先無議決権株式に変更いたします。
これによりまして、経営に興味のないご親族から、会社経営
に対する干渉の心配がなくなる。利益が出たら配当を受け取っ
て資産形成の一助となる。または従業員持株会を通じて、配当
を受けますので、持株会の組合員である従業員が会社の業績を
意識するようになる。勤労意欲が増す等の効果が期待できます。
ご利用にあたっての注意点
一見すると何もかもうまく治まるように見える上記制度設計
でありますが、デメリットもそれなりにあります。
まず第1点目は、お手続きをするにあたり、たいていの場合、
普通株式から配当優先無議決権株式にその内容を変更する場合、
変更を希望する株主と、普通株主に留まる株主全員の同意を要
します。つまり株主全員がお手続きに反対しないことが前提と
なります。
第2点目として、配当優先無議決権株式という種類株式を発
行することになりますので、株主総会決議事項によっては、株
主総会決議事項とは別に、種類株主総会の決議を要する事項が
出てまいりますので、種類株主総会の要否、種類株主総会の開
催という面倒なお手続きが1つ増えてしまうこと。
そして第3番目として、配当優先無議決権株式を保有するこ
とになったからといって、毎年必ず、普通株主に先んじて配当
を受けれるとは限らないということです。
どういうことかと申しますと、優先株主に対して、剰余金の
配当をするためには、株主総会決議を要します。そこでこの株
主総会での配当に関する議案が承認されなければ、優先株主は
配当を受けられないということです。
意図的に配当を止められたら、優先株主としては、経営には
関与できないし、たまったものではありません。
おわりに
以上の通り、運用如何によっては、優先株主との不和を生じ
させる材料になりかねないこと。
期待した後継者が突然の死を迎えることで、会社の計画した
事業承継プランに変更を迫られることもあること等々、先々を
考えた慎重な制度設計が求められるものと考えられます。