権利の窓
2008年03月24日 民法入門40 「放っておくと知らない間に・・・」
消滅時効 ―民法入門40―
「放っておくと知らない間に・・・」
訳ありまして(私のせいかも)、前々回からの続きで今回は消滅時効についてお話したいと思います。
消滅時効は、権利の行使が可能であるにもかかわらずに、そのまま行使をしないことによって進行していきます。
権利の行使が可能であることを知らなくても進行するのです。どうです、題にぴったりでしょ。
ということで、法律上では債権の消滅時効の時効期間は10年で、債権または所有権以外の財産権の時効期間は20年とされていますが、一定の債権については3年、2年、1年の短期消滅時効が規定されています。
短期消滅時効は、金額の低い債権などについては短期間でその存在の証明が困難になる可能性が高く、また、頻繁に生じることから認められています。
では、皆さんも気になるところでしょうが、一体どのような債権がどのくらいの期間で時効になるのでしょうか。
たとえば、2年の短期消滅時効にかかるものとして、会社間の売掛金、大工・左官・植木屋などの賃金、理容師・クリーニング屋などへの代金、学校・塾の授業料などがあります。
この中の売掛金については、取引相手の会社を信用していてうっかり2年が経過しないように注意しておきたいところですが、ただ単に請求書を送付(確実な証拠を残すために内容証明郵便を配達証明付で)したに過ぎないときは、6ヶ月以内に裁判上の請求等を行なう必要があります。この場合の請求書を送付する行為は法律上「催告」と呼ばれ、完全に時効を中断しうる手段ではないからです。
また、6ヶ月間、時効完成まで猶予ができたからといって、期間満了前にもう一度請求書を送付したとしても再び延びることはありませんので注意が必要です。
ちなみに「催告」は時効の停止に似た働きを持ちますが、その後の裁判上の請求により「催告」のときに時効の中断があったことが確定します。その点では停止後の中断とは異なります。詳しくは第37号(作成者 小南氏)をご覧になってください。
他に、電気料金なども2年の短期消滅時効にかかります。
また、1年の短期消滅時効にかかるものには、運送賃、ホテル・旅店・料理店の宿泊料、飲食料、俳優・落語家・音楽家の報酬、映画館・ボーリング場の入場料、貸本・貸衣装の借り賃などがあります。
しかし、飲み屋のツケを1年も払わずにいること自体なかなか難しいですよね。ツケにしてもらえるような常連だったらもしかすると時効になってる代金があるかも知れません。それでも常連としては「その金は時効だからもう払わない」なんて言ったりしたらもう行けなくなりますもんねぇ。また、飲み屋のママにしても代金回収には手を抜かないでしょうし…。
このように短期の消滅時効が認められる一方で消滅時効にかからない権利もあります。
最初にご説明したように、所有権の消滅時効については法律上の規定がなく、所有権は消滅時効にかからないとされています。
ここで、前々回分をご覧になられた方の中には「えっ」と思う方もいるでしょう。そうです。たとえば、取得時効によって土地をなくしてしまった人にとっては消滅時効によって土地をなくしたと思うでしょう。
しかし、法律上は取得時効の反射的効果としてそのような結果になると説明されます。所有権が消滅時効によってなくなってしまったとはあくまでも言わないようです。
これは、所有権絶対の原則のあらわれといわれます。
つまり、所有権は国や地方公共団体といえども侵すことができず、絶対的に個人に存在し、何人からも侵されることがないという考え方です。
(作成者 梶原 亮)