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2006年06月12日 民法入門16 「嘘つきは・・・。」

法律行為 意思表示 虚偽表示 ―民法入門16―
「嘘つきは・・・。」

今回は、相手方と通じて虚偽の売買契約をしてしまった山田さんのお話です。山田さんの身にいったいどのような法律効果が起こるのでしょうか?

山田さんには、大事に大事にしている車(メルセデスベンツ)がありました。その愛着ぶりといったら近所でも有名で、3年たった今でも新車のようにピカピカでした。

しかし、ある複雑な事情(事情については割愛)から山田さんは車を所有出来なくなってしまいました。大事にしていた愛車を売却しなければならなくなったのです。

困り果て、どうしても愛車を手放したくなかった山田さんは、友人である田中さんに、「買ったことにして自分のために所持していてほしい」とお願いしました。田中さんは、友人の頼みならと心よく承諾してくれ、名義変更等の手続きをして売買が行なわれたような外形を作ることに協力したのです。

ここで、民法第94条1項「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」との規定があります。

ということは、今回の山田さんと田中さんの売買契約は無効ということになり、いまだ所有者である山田さんはいつでも、田中さんに愛車を「返してくれ」と主張することが出来ます。これは、民法の原則である意思主義(個人の意思を最も尊重する立場)のもと、虚偽であることを認識している双方に法的拘束力を与えて保護する必要性がないからだと言われています。

結果、しばらくして、田中さんに車を所持してもらう必要がなくなった山田さんは、民法の規定どおり車を返してもらい、再び愛車でのドライブを楽しむことが出来るようになるはずです。

では、どのような場合にでも無効を主張することが出来るのでしょうか?

売買をしたということは、外形上所有権を移転することです。現在の外形上の所有者は田中さんということになります。もしも、田中さんが悪いことを考える人だったら・・・。

そうです。自分のものとして売ってしまうことも可能なのです。

このことに気づいてしまった田中さんは、何も事情を知らない佐藤さんに車を売ってしまおうと考えました。佐藤さんに話しを持ちかけると偶然メルセデスベンツを探していた佐藤さんは3年落ちの割には程度の良いこの車を気に入りすぐに購入を決めてしまいました。

この場合、山田さんは愛車を返してもらうことができるのでしょうか?

民法94条1項の規定では、山田さんと田中さんの売買契約は無効です。無効である以上、田中さんは真の所有者ではありません。所有権のないものは処分権限を持たずその者から譲り受けた佐藤さんは所有権を取得できないのが原則です。しかしそれではあまりにも佐藤さんが可哀想な気がしませんか?

このようなことを想定し、民法は同条2項で以下のように規定しています。

民法94条2項「前項の規定による意思表示の無効は善意の第三者に対抗することができない。」

善意とは、ある事実を「知らない」という意味です。虚偽の外形(虚の売買契約の事実)を知らない佐藤さんに対しては無効を主張することが出来ず、山田さんは愛車を返せと言えなくなってしまうのです。

かくして、愛車を手放したくない一心で虚の売買をした山田さんでしたが、結局愛車を失ってしまう羽目になってしまいました。

やはり、嘘をつくとろくなことがありませんよね。

正直者が馬鹿を見ないこのような法律ばかりであってほしいものです。

(作成者 堤 大助)