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権利の窓

2006年04月18日 民法入門13 「真春(?)の果実」

物 果実 ―民法入門13―
「真春(?)の果実」

今回お話しするのは果実のお話。果実といえばリンゴ、みかん、ぶどう・・・等々、私たちの味覚を喜ばせる、フルーツを想像される方がほとんどではないでしょうか。

我が国の民法はそれら(他に、鶏の卵、鉱物など)を総じて天然果実と名付け、もう一種類の果実と差別化しています。
もう一種類の果実とはなんでしょうか。その名を法定果実といいます。

この法定果実とはいかなるものでしょう。民法88条2項は「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」と定義しています。そう、身近なところでは家賃なんかがこれにあたりますね。利息もそうです。貸し付けた金銭の使用料と考えると合点がいきますね。
要するに使用させる物を木に見立て、その対価を木になる果実と見立てるから法定果実。民法ができたのは今から100年以上も前ですが、昔の人もうまく考えたものです。

さて、この天然果実と法定果実。わざわざ民法が差別化するのですから、様々な違いがあるのですが、今回はなかでも面白いものをご紹介しましょう。

果実の収取権者、すなわち果実の権利者ともいうべき人ですが、天然果実なら果実を実らせる物の所有者、地上権者等々の権利者、法定果実なら家主、債権者などがこれにあたります。

さて、この収取権者が途中で変わってしまった場合、どうなるのでしょうか。

法定果実の場合、例えば貸し付けた金銭の利息が発生し、返済までの間に債権者が変わった場合がこれにあたります。
この場合、民法は前権利者と現権利者とで仲良く(?)日割り計算せよと定めています(89条2項)。
法定果実はいうなれば金銭ですから、このように合理的な計算が可能なわけなんですね。

では天然果実はどうでしょうか。例えばとあるリンゴ農園のオーナーが正に収穫日前日に変わった場合を想定してみてください(いささか極端な例ですが)。果たしてリンゴを収穫できるのは丹精こめて育ててきた前オーナーでしょうか。それとも収穫するときに農園のオーナーであるというだけで現オーナーが収穫してしまうのでしょうか。

結論から言いますと、現オーナーの総取りになります。民法は89条1項で、天然果実の収取権者を「元物(果実を実らせる物)から分離するときにこれを収取する権利を有する者」と規定しています。要するに、天然果実は金銭のようにきっちりと割れるものではないので(リンゴは割れないこともないぞというご指摘もありましょうが)、画一的に収取権者を定めてしまおうという趣旨です。

残念ながら我が国の民法にはこういった画一的な規定が多々あります。先ほどの例え話でも、どれ程前オーナーの愛情がリンゴに注がれていようと民法にはこれに報いる術がありません。
そう考えてみると、緻密に作られているようにみえる民法にも限界があり、恐るるに足らずという気さえしてきますね。

・・・というのは冗談で、この手の民法の規定は任意規定といって、要するに「当事者どうしで好きに決めたらいいよ。でも決めてない場合は民法が案を出してあげる」といったものなのです。

ですからリンゴ農園の前オーナーの愛情をリンゴに換算して収穫させるもよし、より現実的に、収穫するリンゴも含めたお値段で農園を売買するもよし、そのあたりの細かいところは、あえて民法は定めず、当事者の手に委ねているのです。
ですから、「この春に引っ越すんだけど、庭の柿の木になる柿を、秋にどうしても収穫したい」という貴方(該当する人少なそうですが・・)。
次に住む人と交渉してみてはいかがでしょう。我が国の民法はそんな貴方の柿に対する愛情を、邪魔もせず、手を差し伸べもせず、ちょうどいい距離感で見守ってくれているのです。

(作成者 佐野 晋一)