権利の窓
2005年11月01日 民法入門1 「愛犬に家を譲りたいのですが・・・」
権利の主体(1)自然人 権利能力の意義・始期・終期 ―民法入門1―
「愛犬に家を譲りたいのですが・・・」
1. 法律行為の当事者
家や土地を所有している場合、私たちは原則として遺言でそれらを誰に譲るか決めることができます。多くの場合は相続によってその子や孫がそれを引き継ぐことになりますが、生前の所有者の意思が尊重されるため他人に譲ることもできるのです。
では、次のような事例は許されるでしょうか。
「私の息子たちは自分のことばかり考えて、私の老後の世話など全くみてくれません。私の老後を支えてくれたのは愛犬だけでした。何もしてくれない息子たちに私の財産は残したくありません。いっそのこと、遺言でこの愛犬に財産をあげてしまおうと思います。」
この場合、結論から言えば愛犬に家をあげることはできません。遺言で財産を譲るという行為は「遺贈」という法律上の行為にあたります。この法律上の行為(法律行為)の当事者となるためには資格が必要となります。この資格を権利能力といいます。これは買い物をしたり(売買)、持ち物をあげたり(贈与)といった他の法律行為でも同様です。
権利能力は「人」と会社等の「法人」に認められていますが、犬には認められないからです。
2. 人の権利能力
人の出生により権利能力を得、死亡によってこれを失います。つまり我々人間は生きてさえいればこの資格があるわけです。
逆に死亡した人には権利能力はないことになります。ですから、死亡した人から物を買うことはできませんし、たとえ一瞬でも物の所有者が死人であることはあり得ません。死亡と同時にその相続人等に所有者が移ることになるのです。
しかし例外として、出生前の胎児には権利能力が認められる場合があります。相続する場合や遺言によって財産を譲る場合など一定の場合のみ、出生することを条件として認められるのです。例えば妊娠中の妻が居るときに父親が死亡した場合、お腹の中の子供が財産を相続することも認められます。これは実の子供でありながら父親の死亡時に胎児であったために、父親の財産を相続できないのは不都合であるからです。
3. 法人の権利能力
一定の手続きを経て設立された会社などにも権利能力は認められています。会社が土地などの財産を持ったり、当事者として財産を売ったりできるのはこの権利能力が認められているからです。
会社などの法人は設立によって権利能力を得、解散・清算手続きの終了によりこれを失います。これらの手続きは法律上定められたものでなければなりません。
法人は、人や財産の集まりに対して、概念として人格を与え、目的の範囲内で権利能力が付与されます。ですから確実に存在することが必要であり、そのために法律で決められた手続きで設立することが必要なのです。また同様の解散・清算の手続きを経ることではじめてその不存在が確認され、権利能力を失うことになるのです。
これらの手続きを経ていない集団を、権利能力なき社団といいます。サークルや同窓会は人の集まり(社団)ですが、法律上の手続きを経ていないので権利能力は認められないのです。ですからサークル名義で財産を持つことはできません。この場合の財産は構成員全員に帰属するというのが判例・多数説です。(最判昭32.11.14)
(作成者 山本 基樹)