権利の窓
2009年01月16日 民法入門47 「せっかく買ったのに・・・」
物権の消滅 ―民法入門47―
「せっかく買ったのに・・・」
1.はじめに
みなさんこんにちは。
前回まで、物権とは何か、物権はどのように取得するのかについてみてきました。
今回は、物権が消滅するケースについて見ていくことにします。
2.いろんな消滅原因
(1) みなさんが今この原稿をご覧になっているパソコンが、みなさん個人の所有物だとすると、みなさんはパソコンに対して「所有権」という物権を持っていることになります。
では、このパソコンがある日突然故障してしまったとしましょう。
たとえ故障したからといって、みなさんの所有する物であることには変わりありません。修理に出すことも、いらなくなったから他の人に売ることも、腹いせにポコポコ叩くことも・・・なんだって自分の好きなようにすることができます。これは、パソコンに対して「所有権」という物権を、みなさんがそれぞれ持っているからこそできる行為です。
もちろん、誰か悪い人が勝手にこのパソコンを持ち出したり、売ったりすることはできません。「所有権」を持っていない人は、その物を処分する権限を持たないのです。
では仮に、このパソコンが火災によって、跡形もなく無くなってしまったならばどうでしょうか。
みなさんは、パソコンを修理に出すことも、他の人に売ることもできなくなってしまいます。「所有権」の対象となっていた物自体が消滅することで、「所有権」があったからこそできた行為が全てできなくなる、つまり「所有権」が消滅してしまうことになるのです。
パソコンの一部でも残っている場合には、引き続き「所有権」は「元はパソコンであったもの」に及びますので、注意が必要です。
(2) 次は、パソコンよりも大きな物、建物について見てみましょう。
みなさんが銀行でローンを組み、新しい家を購入したとします。購入した家屋には、①みなさんが所有することの「所有権」と、②銀行がその家屋をローンの担保にとることの「抵当権」という、種類が異なる二つの物権が並存することになります。
なんとも不吉な例で恐縮ですが、仮に、その家屋が火災で跡形もなく無くなってしまったとしましょう。この場合、先のパソコンの例と同じく、みなさんの「所有権」は消滅してしまいます。では銀行の「抵当権」も同じく消滅するのか・・・と思いきや、今まで存在していた家屋の代わりに、火災保険金などの金銭価値そのものが「抵当権」の対象となることで、その消滅を免れるのです。これは『物上代位』という、一部の物権(「所有権」は含まれません!)特有の概念ですが、紙幅の都合上、詳細は今後の解説を待つことにします。
(3) 物自体が無くなってしまう場合以外にも、物権が消滅するケースは存在します。
家屋の例でいうと、何らかの事情によって、銀行がみなさんからこの家屋を買い受けたとします。家屋を買い受けることによって、銀行は「所有権」と「抵当権」両方の物権をもつことになりますね。この場合、「自分が持っている家を自分で担保にとる」という、全く実益のない、ややこしい状況が発生します。
そこで民法では、「所有権」と「所有権以外の物権」を同じ人がもつことになった場合には、「所有権以外の物権」の方を消滅させることとし、権利関係をすっきりさせているのです。家屋の例では、銀行は「所有権」のみをもつことになります。
ただし、銀行より後に別の「抵当権」がついているような場合はどうでしょうか。「抵当権」が消滅する結果、銀行は無担保となり、この物件が競売にかかったりすると、優先的に弁済を受けられなくなってしまいます。という事は、必ずしも自分の所有物に「抵当権」を持っている状態が、不自然とは言えない事になりますね。
民法は、この場合、銀行の「抵当権」は消滅しない事をちゃんと定めています。
“物件”があってこその物権。くれぐれも火災にだけはお気をつけくださいね。
(作成者 角野幸右)