権利の窓
2007年02月22日 民法入門29 「無かったことに・・」
無効と取消 無効 意義・態様 無効行為の転換 ―民法入門29―
「無かったことに・・」
深夜、とあるビルの一室、何やら怪しげな雰囲気の中である売買契約がなされようとしていますが・・・。一体この契約はどんな内容なのでしょうか。有効に成立するのかどうか、ちょっと覗いてみましょう。
粉屋 「今日のブツはかなり上等なものですよ。親方との仲ということでこの値段でどうですか?」
親方 「エエんでっか!?すんまへんなぁそない安い値で。ほな契約成立ってことで」
弟子 「(ガチャ!)ちょっと、親方!何やってるんですか!」
親方 「どないしたんや!?そんなに慌てて・・」
弟子 「話は全部聞かせてもらいました!親方、その契約は無効です!」
親方 「無効!?何でや!?何の問題も無いハズや!」
弟子 「よく考えて下さいよ!親方のやってることは社会的な常識に反する最低な契約です!見損ないましたよ・・・」
親方 「何でこの契約が常識に反するんや?」
弟子 「何でわからないんですか?麻薬の売買なんて許されるわけ無いでしょ!」
親方 「(こいつ何か勘違いしとるな。まぁ最後まで聞いたろ)」
弟子 「そういう内容の契約は最初から効力を発生させないことになってるんです。(民法90条)」
親方 「そうなんか。ほんで、その無効の場合ってのは社会常識に反する時だけなんか?」
弟子 「他にもいくつかありますが、じゃあ親方の大好きな骨董品で一つ例を。親方が茶碗と勘違いして湯のみを買ってしまったとします。その場合その契約は無効になります。でも親方にちょっと注意すれば誰でも湯のみだと気付くような大きな落ち度があった場合、親方はその契約の無効を主張できません」
親方 「なるほど、不注意の程度が大きかったら保護されへんてことやな」
弟子 「さすが親方、そういうことです。ちなみに無効の場合には商品と代金をお互いに返さないといけなくなります」
親方 「最初から効力が無かったことになるんやもんな。お前いつの間にそんなに法律に詳しくなったんや?」
弟子 「やる時はやりますよ。褒められついでにもう一つ。親方が遺言書を書くとするでしょう」
親方 「何っ!気が早すぎや!」
弟子 「まぁまぁ、例えばですよ。民法971条では秘密証書遺言の自筆証書遺言への転換というのが定められてるんです」
親方 「何かよくわからへんなぁ」
弟子 「僕もその辺りはまだ詳しく勉強してないんですけど、簡単に説明すると、遺言というのは法律で要件が厳しく定められてるんですけど、秘密証書としての要件が欠けていても自筆証書としての要件を満たしてる場合には自筆証書遺言として有効に取り扱われることになってるんです。これを無効行為の転換というんです」
親方 「ほぉ、なかなか融通の利くエエ制度やな」
弟子 「でしょ。親方もこれを機に少し法律の勉強でもして、あんな馬鹿な契約は二度としないようにしてもらいたいですよ」
親方 「お前な、さっきから何を勘違いしとるんや?これ何て書いてあるかよう見てみ」
弟子 「・・・小麦粉・・・??」
親方 「うちはうどん屋や。上等な小麦粉仕入れて何が悪いんや?」
弟子 「え~、だってこんな時間にこんな怪しい所で・・・」
親方 「お前が勝手に勘違いしただけやろ!せっかく上等なモン持ってきてくれはったのに、怒って帰ってしもたやないか!」
弟子 「うう、親方、今回の件、勘違いということで無かったことにしてもらえません??」
親方 「ダメや!お前には重大なミスがあるやろ?だから無効主張不可や!!」
弟子 「・・・」
(作成者 人羅 一磨)